民主化の闘士「激動の生涯」自由にモノが言える普通の国をつくり・・・春秋 八葉蓮華

 オリンピック開催に沸く21年前のソウルで、かの地の女子大生たちから流行のあれこれを取材したことがある。「音楽は何が好き?」と聞くと競い合うように答えてくれた。「日本の中島みゆき」「工藤静香がいいな」「中森明菜です」

 こちらの人気者をよく知っているのに驚いたものだが、当時、日本の大衆文化は本当はご法度。「CDがなかなか手に入らなくて」と彼女らはため息をついた。韓国が長年築いていたそんな壁を取り払ったのが、亡くなった金大中元大統領だ。この民主化の闘士は、日本の政治や文化への理解が深い人でもあった。

 かつて、いきなり拉致されたのも東京滞在中の出来事である。その後も投獄、シ刑判決、米国亡命、そして不死鳥のような大統領就任と激動の生涯を送りながら、祖国民主化の理想に日本の姿を重ねていたに違いない。一昨年、最後の来日を果たした際にも京都での講演で、両国の過去と未来を切々と語っている。

 ノーベル平和賞につながった南北融和政策には批判も少なくない。しかし自由にモノが言える普通の国をつくり、日韓のわだかまり解消にも熱っぽく取り組んだこの人はやはり現代史の傑物だったろう。先日、久しぶりにソウルを訪れてその変容ぶりに目を見張った。日本のCDも雑誌も、日常風景のなかにある。

春秋 日本経済新聞 8/19
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