2008-11-01から1ヶ月間の記事一覧

社会に居場所が見つからなかったら・・・春秋 八葉蓮華

就職活動に全力投球する大学生の苦闘と成長を描いた青春小説が石田衣良さんの「シューカツ!」だ。卒業式を迎え就職が決まらない。そんな夢で目が覚め眠れなくなる。社会に居場所が見つからなかったら…。主人公の不安に共感する若者は多いかもしれない。▼自…

近いうちに次の首相に就任のお祝い・・・春秋 八葉蓮華

今日は、三(さん)の酉(とり)。東京近辺のあちこちの神社で酉の市が開かれている。冬が始まる季節感が濃いこの祭は文芸の好題材になってきた。「ぼく」と年増の吉原芸者「おさわ」との会話でほぼ終始する久保田万太郎の「三の酉」もその1つだ。▼浅草生ま…

インドでテロ事件 宗教対立が・・・春秋 八葉蓮華

ボンベイだった町がムンバイに改められたのは、1995年5月のことだ。地元州議会の選挙で勝ち地方政権を握ったヒンズー至上主義極右グループが、英国統治時代に定着した名を嫌い、より古い土着言語の呼び方に戻したのである。▼イスラム教徒と衝突を繰り返すヒ…

マグロ悲歌が生まれるならば、幻の魚になった後かもしれない・・・春秋 八葉蓮華

日本の食文化史を研究して30年近くになる原田信男さんの近著「食をうたう」は、飲食に題をとった詩・短歌・俳句を博捜し、詩作した人と時代を論じる。「少しばかり遊んでみたく」て書いた、というのが謙遜(けんそん)に思える労作である。▼「秋刀魚と殉情 …

荒唐無稽な論理を築き上げ、妄想を膨らませて凶行・・・春秋 八葉蓮華

音信の途絶えていた息子から10年ぶりに電話があった。「父ちゃん、手紙を送ったから」。さては嫁さんでも……きっといいことだろう。そう思ったという父親が哀れだ。数時間後には、そのわが子は予想もしない出頭劇を演じていた。▼手塩にかけて育てた肉親でも、…

作品は別人格なのだろうか・・・春秋 八葉蓮華

あのニュースをどこで聞いたか、50歳以上なら、多くの人が記憶しているはずである。38年前のきょう、作家の三島由紀夫は東京・市ケ谷の陸上自衛隊・東部方面総監部に入り、総監を監禁し、バルコニーで演説、割腹自殺した。▼亡くなったとはいえ、三島の行動は…

共有をキーワードにした新ビジネス・・・春秋 八葉蓮華

「持たざる経営」が産業界に広まったのはバブル崩壊後の1990年代だったろうか。在庫や設備、組織の一部を外部に出すことでコスト削減と環境変化への対応力につなげた。これをもじるなら、いま消費者が目を向ける先は「持たざる消費」かもしれない。▼隣の車が…

「イイフミの日」丑の足音がどんどん近づいてくる・・・春秋 八葉蓮華

森鴎外が史伝「伊沢蘭軒」を新聞に連載中、朽木三助なる読者の手紙を受け取った。蘭軒の悪い噂(うわさ)を伝えている。鴎外は1回を割いて手紙全文を紹介したうえで噂に反論し、いたずらとも思ったが「筆跡は老人なるが如く、文章に真率なる処がある」と書い…

われわれよりは少し賢い政府、指導者の舵取りで暮らしたい・・・春秋 八葉蓮華

不用意な言葉で麻生首相が混乱を招いている。舌三寸に胸三寸という。首相であっても口は慎まなければいけない。河村官房長官が「勇み足をしたのかな」とかばってはみてもこの首相は余りに“個性的”で周りは冷や冷やし通しだろう。▼医師不足への対応を問われて…

名もなき者たちよ立ち上がれ・・・春秋 八葉蓮華

手帳売り場が込み合い、お節料理のお重の予約が始まる。寒波の訪れとともに、年末気分が高まってきた。百貨店の安売りや第九合唱。おなじみの催事は色々あるけれど、目新しいところではアマチュア音楽家たちの活動がにぎやかだ。▼大声で叫びたい中高年が、世…

義賊気取りで凶行,社会を恐怖どす黒い快感・・・春秋 八葉蓮華

夕暮れのひととき、家々に灯がともるころを昔の人は「逢魔(おうま)が時(とき)」と呼んで恐れた。この時分は化け物や妖怪のたぐいがうろつき、悪さをするという言い伝えだ。だから早めに帰ってきなさい、と子どもを戒める意味もあったのだろう。▼さいたま…

「アルコールとクルマの絶縁」飲酒運転根絶を唱えても・・・春秋 八葉蓮華

「おい癌め酌みかはさうぜ秋の酒」。枯れ葉の舞う季節になると、この句を口に出したくなる。11年前、食道がんで逝った江國滋さんの闘病中の作品だ。酒というものに、江國さんはこみ上げる思いと不屈の心意気を託したのだろう。▼そんな懐の深い秋の宵の一杯二…

衝突現場のずっと先にまで・・・春秋 八葉蓮華

「草の根を分けてでもホシを挙げてやる」。警視庁交通部の幹部が、交通警察には例のないほど激していたのを思い出す。1990年1月。東京都江戸川区で自転車に乗った母子がダンプカーにひき逃げされ、2人とも亡くなったのだ。▼運転手が捕まったのは発生から79日…

実態からの逃避と知的衰弱・・・春秋 八葉蓮華

熱帯林や草原を農地に変え、穀物を植えてバイオ燃料に。その過程で放出される二酸化炭素(CO2)は、得られたバイオ燃料がもたらすCO2削減効果の17―420倍にもなる。米ミネソタ大のデイビッド・ティルマン教授は、この膨大な「炭素負債」をフィールドで実…

小回り、目配り、人くささ 小規模組織の強み・・・春秋 八葉蓮華

千葉県の中規模な町にある地元不動産会社。平日午後、社員は事務や接客に余念がない。雰囲気が一変するのは夕刻だ。「ただいまー」。学校帰りの子供たちの声が響く。宿題の合間にお茶を出し、不要の紙を切りメモ用紙を作るなど大人の手伝いをこなす。▼野老(…

こんな広い空なのだから・・・春秋 八葉蓮華

東京・荒川区のふるさと文化館で「作家・吉村昭の誕生」を見た。地元の日暮里で生まれ育った小説家の遺品類が夫人の作家津村節子さんから区に寄託されていて、それを年代順に整えた、小規模でも吉村ファンには楽しい展覧会である。▼その吉村さんにちょうど今…

世の中には言っていいことと悪いことがある・・・春秋 八葉蓮華

謝らないといけないようなこと言った? そんな風情だったのに、2日後の昨日「深く反省します」に一転した。目前に広がる抗議に思わず後ずさりの格好。「関東の大地震は関西にはチャンス。チャンスを生かす準備を」は「取り消させていただく」という。▼言葉尻…

自己陶酔以外のなにものでもない・・・春秋 八葉蓮華

先ごろ96歳の天寿を全うした米国の作家スタッズ・ターケルはインタビューの天才だった。「いわゆる、おしゃべり」をするだけで相手は「痛みや夢を閉じ込めてあった水門を次第に開けていく」。そんなふうに自著に書いている。▼115の職業に就く計133人から聞き…

「洋服の日」蝶ネクタイの締め方・・・春秋 八葉蓮華

きょうは「洋服の日」なのだそうだ。洋服という言葉それ自体の響きが古いが、明治5年のこの日に出た「礼服ニハ洋服ヲ採用ス」の太政官布告にちなむ。古式ゆかしい裃(かみしも)や束帯が消え、洋式礼装に代わる。いわば服装革命の日だった。▼なかでも燕尾服…

給付金が私に来るとは思っていない・・・春秋 八葉蓮華

ケチともったいながりとは違う。むだ遣いと切れ離れがいいのも違う。もったいながりで切れ離れがよくて。「そりゃむずかしいけれど、どっちも大切よ」。随筆も見事だった浅草生まれの女優沢村貞子の著書「寄り添って老後」に、そんなことが書いてある。▼しか…

“誤った友情”のために多くの人を裏切るのか・・・春秋 八葉蓮華

八百屋の長さんは本因坊に5目を置いていい勝負をする程の腕前。相撲茶屋の権利欲しさに伊勢ノ海親方のご機嫌をとってわざと負ける。後でばれて「あの八百長のやつ、ひどい野郎だ」となる。これが「八百長」の語源のようである。▼前理事長や現役横綱が証言台…

航空自衛隊組織に潜む危険な空気・・・春秋 八葉蓮華

「空」での優位は戦いの行方を決する――。航空自衛隊のホームページに見える文章は、その重い役割をうたって意気も高い。有事に直面したとき、カギになるのはたしかに制空権だろう。近年ではこれを「航空優勢」と称するようだ。▼そんな気概にあふれた空自であ…

心身を蝕む薬物なのに・・・春秋 八葉蓮華

ヒッピーという言葉は、今も生きているのだろうか。ずっと昔、既存の秩序や権威に抗(あらが)う若者を引き付けた米国発の風俗だ。長く伸ばした髪や髭(ひげ)。質素な衣服。自然回帰を唱え反戦を訴えた彼らだが、ドラッグ(薬物)とも縁があった。▼左翼活動…

人格そのものによって評価される国・・・春秋 八葉蓮華

4人の若者が軽食用のカウンター席に腰を下ろした。黒人の大学生である。しかしそこは白人専用のいすだった。注文したコーヒーも供されず、罵声(ばせい)が飛んでつばを吐きかけられた。それでも4人はじっと耐え、教科書を読みふけった。▼1960年2月、米国…

10年たったらまた会おう・・・春秋 八葉蓮華

「あ、売れる方程式ですか?“ディスコ、プラス、カラオケ割る2”なんですよ」「割っちゃうのがすごいよね、二で」。捕まった小室哲哉容疑者(49)が1世代上の歌手、吉田拓郎さん(62)と13年前、こんなやりとりをした。(「小室哲哉音楽対論2」)▼なるほど…

米国の姿はすっかり変化・・・春秋 八葉蓮華

流れる文章の中で、特定の語句が雲のように浮かび上がる。いきなり巨大な文字に化けたり色や形が変わったり。ネットでよく見かける視覚的な表現手法だ。詳しい人は「タグ・クラウド」と呼ぶ。直訳すれば「付箋(ふせん)の雲」だろうか。▼米国の学生が、この…

どうすれば未来志向の発想が・・・春秋 八葉蓮華

もし存命ならきょう80歳の誕生日を迎えたのが漫画家の手塚治虫。若い画家らが手塚漫画の中の好きな人物などを独自の感覚や解釈で描き直した絵画展が都内で開かれている。時代を超える手塚作品の影響力を感じさせる展示会だ。▼そんな手塚にも失意の日々があっ…

「癒やし」と「美観」vs「治安」と「安全」・・・春秋 八葉蓮華

葛飾北斎の富嶽三十六景「武州玉川」は、富士の白雪、川の青さ、松の緑と色の配置が絶妙である。近くの人と馬を小さく、遠くの舟を大きく描く。愉快な絵だ。現在の東急・二子玉川駅に近い世田谷区玉川からの景色と住民は信じる。▼異説もあるが、確かにそこに…

ささやかなぬくもり・・・春秋 八葉蓮華

きょうから11月。冷気が露を結んで凍え、地を白く覆う霜月の始まりである。旧暦だと、きょうは10月(神無月)の4日にあたる。旧暦神無月の別称は小春。ゆく秋は、冬将軍に城を明け渡す前に、明るく穏やかな日差しの小さな春を、この季節に呼び戻す。▼暗く厳…