2008-10-01から1ヶ月間の記事一覧

頼れる男を演じられない・・・春秋 八葉蓮華

「いいかげんな男というのは、ほんとに一生懸命やらないと、いいかげんに見えなくなってくるんですよ」。いいかげんな男を演じて右に出る者のなかった植木等さんの述懐である。各国の政治家の姿を見て、この言葉を思い出した。▼「頼れる男は、ほんとに一生懸…

「埋蔵金」賊が隠匿する目的で・・・春秋 八葉蓮華

陸軍中野学校の研究で知られた作家畠山清行氏は、埋宝・沈船すなわち土中に隠した財宝や財宝もろとも沈没した船の、日本各地に残る伝説を調べあげた人でもあった。その成果が原稿用紙2000枚を上下2巻にした「日本の埋蔵金」だ。▼全国150余カ所にのぼった調…

芸術に親しむ候「静かなる詩情」・・・春秋 八葉蓮華

人の気配がない街中の建物。鑑賞する人から視線をそらす肖像。後ろ姿か横向きで部屋にたたずむ女。空の青、雲の白、木々の緑がない灰色の風景……東京・上野の国立西洋美術館で開く展覧会の絵は、変わった静けさに包まれている。▼ヴィルヘルム・ハンマースホイ…

おのれを救うものは自分しかない・・・春秋 八葉蓮華

どこまで続く泥濘(ぬかるみ)ぞ/3日2夜を食もなく/雨降りしぶく鉄(てつ)兜(かぶと)――歌人の岡井隆さんは本紙文化面に連載中の「私の履歴書」に、軍歌「討匪(とうひ)行(こう)」が、人生の難局に突き当たって悩んだときに「もって来いの応援歌だっ…

多様さが厚みにつながり・・・春秋 八葉蓮華

東京都千代田区の神保町といえば世界一ともいわれる古書の街。イラスト作家の池谷伊佐夫さんはエッセー集「神保町の蟲(むし)」で1970年ごろのこの街について「漫画を扱っている店はまだなかった」と記す。神保町は漫画を商品とは認めていなかったようだ。▼…

リタイアをにらんだ団塊世代・・・春秋 八葉蓮華

「ゴルフでは得意の絶頂から奈落の底に転落するなど、珍しくもない。まさに人生そのものだね」と全英オープンに4度勝ったトム・モリス・シニアが言ったとか。水道管を切って直径10.8センチのカップをこの世に誕生させた人でもある。▼「騎士たちの1番ホール」…

訓練の名の下に・・・春秋 八葉蓮華

明治期のお雇い外国人医師ベルツは、29年間日本に滞在した後いったん故国ドイツに帰り、3年後に再び来日した。その際訪れてぞっこんほれ込んだのが、広島県江田島の海軍兵学校である。ちょうど100年前、1908年のことだ。▼日記では「これほど例外なく活力と生…

いちいち目くじらは立てまい・・・春秋 八葉蓮華

「ほんとによく食べ、よく飲んだ。健坊の健啖(けんたん)ぶりは異常であった」。白洲正子さんがこう記している。健坊とは、白洲さんと親しかった作家の吉田健一氏だ。麻生首相の伯父にあたる彼はとことんグルメで酒豪で洒落(しゃれ)者だったという。▼たと…

何が災いをもたらしたのか・・・春秋 八葉蓮華

米国のテレビドラマ「ER緊急救命室」のファンは日本にもずいぶん多い。魅力のひとつは騒然とする救命現場に医療用語が飛び交い、プロたちが迫る死と格闘する光景だろう。専門的な言葉の応酬は医療ドラマに欠かせない仕掛けだ。▼ところが自分が患者になって…

財布のひもはなかなか緩まない・・・春秋 八葉蓮華

お椀(わん)にご飯を山のように盛って、さあ心置きなくと客をもてなす――。かつて、こういう供応を「椀飯(おうばん)振る舞い」と呼び、これが転じて「大盤振る舞い」になったという。あれこれ考えぬ気前のよさが「大盤」なる言葉にこもっている。▼太っ腹の…

危機の責任をなすり合う・・・春秋 八葉蓮華

夕刻の工場の道をバイクが駆け抜ける。男にしがみつくお姉さんの茶髪が、ハタハタとたなびく。バス停に並ぶ仲間が、ちょっぴり眩(まぶ)しそうな顔をする。ハノイ近郊の工業団地には4万人が働いている。大半は20歳前後の女性である。▼若い人の顔つきが変わ…

自分で考えなはれ・・・春秋 八葉蓮華

ことしが生誕100年にあたる宮大工の故西岡常一は、ひとにものを教えなかった。戦争を挟み20年がかりで法隆寺の「昭和の大修理」をなし遂げた名棟梁(とうりょう)だ。若者が全国から集まってくる。その口癖が「自分で考えなはれ」「学校の先生やない」だった…

君子危うきに近寄らず・・・春秋 八葉蓮華

思い立って山のきのこを採りに信州へ。老眼をきのこ目に切り替えて、落ち葉に隠れた森の妖精を探す。本来なら夏の終わり、秋に先駆けて出るきのこ、初茸(はつたけ)がけっこう採れた。煮ればあふれ出る濃厚なうまみだしを、初茸ごはんにしてたっぷりいただ…

とにかくご用心! ・・・春秋 八葉蓮華

結婚をちらつかせ近づいてきた男が奇妙なことを言う。「オレには双子の弟がいる。そいつが君を訪ねてきたらよろしく」。やがて、男と同じ顔の人が現れ「兄が交通事故で入院した。カネが要る」。驚いて、女性は10万円を差し出す。▼警視庁詰めのころ作った切り…

一衣帯水の日中・・・春秋 八葉蓮華

大きなおなかの布袋さまの座像で知られる京都・宇治の黄檗(おうばく)山萬福寺では今日から普(ふ)度(ど)勝会(しょうえ)がある。別名の「中国祭り」が示すとおり、東アジア各地の中国系の人々が集まるところで行われる、道教と仏教の混じり合った風習…

政府も市場も失敗をする・・・春秋 八葉蓮華

半年ほど前に出た「アメリカの高校生が読んでいる経済の教科書」を読んでいる。経済教育論が専門の山岡道男、浅野忠克両氏が、米経済教育協議会(NCEE)作成の学習基準に従って日本の高校教科書を編集してみた、という本だ。▼貯蓄はわずかなのに、金遣い…

寡黙なる巨人・・・春秋 八葉蓮華

「け」に対し「く」と返す。最も短い日本語の会話である。山形県最上町で開いた「日本再発見塾」で、秋田県出身の作家、塩野米松さんが教えてくれた。「食べなさい」「食べます」の意味だ。日本語の豊かさと膨らみを再発見する。 ▼長くしゃべると雪が口に入…

モノやアイデアで客を驚かせ・・・春秋 八葉蓮華

戦後間もない東京・銀座通りを、1頭の子象が歩いている。行き先は日本橋高島屋だ。クレーンで屋上につり上げられ子どもらの人気者に。数年後、動物園に寄贈されるときは成長していてクレーンを使えず、店内の階段を下り、玄関から堂々退出したそうだ。 ▼モノ…

「大逆転劇で連覇」凋落の一途・・・春秋 八葉蓮華

巨人がプロ野球セ・リーグ最大の13ゲーム差という大逆転劇で連覇を果たしたというのに金融危機の深刻さに覆われてか、列島は盛り上がりを欠いた。祝勝会のビール掛けで女子アナが洗礼を受ける映像だけが狂騒曲を奏でていた。 ▼かつて長嶋監督時代の巨人が199…

ぼくに問題があるのか・・・春秋 八葉蓮華

ヒット曲を作り続けた阿久悠さんが、脂がのりきっているはずの42歳のころに半年ほど作詞をスパッと休んでしまったことがある。当時を思い出して、自伝「生きっぱなしの記」に書いている。「全力でスイングしているのに、空気を切る音がしない……」 ▼「ぼくに…

不惜身命いつまで生きられるか・・・春秋 八葉蓮華

作家の池波正太郎さんのもとには、毎年、風変わりなお歳暮が届いていた。相手は緒形拳さんだ。「風呂の手桶(ておけ)を贈ってくれるんだよね。あれも考えるんだね。思いつかないよね」。作家はじつに楽しげに語っている(「男の作法」)。 ▼池波さんといえ…

万物の謎へのロマン・・・春秋 八葉蓮華

6年前を思い出す鮮やかな連覇だ。前日の物理学賞に続き、化学賞でも日本人がノーベル賞に輝いた。下村脩さんの業績は生命科学の発展に欠かせぬ「光るたんぱく質」の発見。株価下落で不安の募る世相をも照らす、一条の光である。 ▼どこの海にもいるオワンクラ…

お金をどう守るか・・・春秋 八葉蓮華

時流におもねず、権力にくみせず、市井の自由人として生涯を送った永井荷風には意外な顔がある。戦後、株式投資に熱中し、資金の出入りを取引台帳にしたためていたのだ。「新潮日本文学アルバム」に、その生々しい写真が見える。 ▼「重工」「麦酒」「日本レ…

「過去」を「今」として受けとめ・・・春秋 八葉蓮華

「とばり」は空間を隔てる薄い布のこと。洋の東西を問わず「夜のとばりに包まれる」という表現がある。はるか彼方(かなた)から静かに訪れ、気がつけば自分は別の世界に取り込まれている。「とばり」は柔らかく優しく人から抗(あらが)う力を奪う。▼舞踏家…

裁判員 選ばれる・・・春秋 八葉蓮華

10月1日からあす7日までが「『法の日』週間」だと知る人はどれだけいるだろう。ご承知であっても、さらに突っ込んで、なぜ1日が「法の日」なのかを聞かれて即答できる方は少なかろう。正解は「1928年のこの日に陪審法が施行されたから」である。▼43年4月に「…

老舗の米企業が次々と転んでいる・・・春秋 八葉蓮華

AIGが危機だと聞いてピンとこなくても、アリコ売却と言われれば、なるほど大変だと思う。米国の巨大企業は社名より、傘下の子会社や商品のブランドの名で日本の消費者に知られる。図体(ずうたい)が大きすぎるから、姿が視野に入らない。▼AIGの正式名…

寂しい空き地・・・春秋 八葉蓮華

都会の空き地は2種類ある。ここに何が建つのだろう。しゃれた店か。立派な邸宅か。好奇心をかきたてる「楽しい空き地」である。もう一つは「寂しい空き地」。草ぼうぼうで、工事の気配もない。未来が見通せない心細げな空間だ。▼漂う空気に敏感だからだろう…

「観光」国の光を観る・・・春秋 八葉蓮華

琵琶湖のほとり、比叡山を背にした滋賀県大津市のはずれに壮麗な御殿がある。昭和初期、外国人観光客向けに誕生したリゾートホテルの建物だ。東京の歌舞伎座を思わせる外観も見事なら伝統工芸の粋を集めた内装もまた素晴らしい。▼先年、ここは気軽に入れる施…

先が見えない迷宮・・・春秋 八葉蓮華

質(ただ)すべき人が述べ、述べるべき人が質す。選挙を意識して勝手に配役が入れ替わった党首の国会論戦は、案の定かみ合わず、両幹事長の「常識的熱弁」に救われた感がある。選挙という圧倒的な現実への対応が最優先なのは、国を問わず議員の習性なのだろ…

ウォール街で失敗した連中を税金で・・・春秋 八葉蓮華

いやまったくの「寝耳に水」だ。米下院で金融安定化法案の採決に入ったのは午後1時28分、こちらの時間で未明2時半前である。40分ほどでノーの表決が固まる。23票差。日本では「草木も眠る丑三(うしみ)つ時」の出来事だった。▼公的資金を使い金融機関から不…