2008-08-01から1ヶ月間の記事一覧
子どもたちの夏休みもきょう限り、などと書きたくなる8月31日だが、近ごろはだいぶ様子が変わってきた。すでに1週間前に始業式を済ませた公立の小中学校が東京都内で150校ほどにのぼる。もちろんこれは全国的な傾向だ。▼宿題を放り出して40日間遊びほうけ…
首相は昨年10月から週1回、メールマガジンを更新している。「○×△。福田康夫です」というのがタイトルで、○×△が毎回変わる趣向だ。最新号は「1枚のうろこ。……」。一瞬、首相が自らをうろこ1枚に例えたかと驚いた。こんなことが書いてある。▼好きな言葉に「龍…
夏の週末、やや日が傾いた時間に米国の住宅地を歩くと、どこからかバーベキューのにおいがする。つられてのぞくと、みんな半ズボン。庭にグリルを置き、火をおこし、肉を焼き、食べ、飲み、しゃべる。日本で冬に鍋を囲む感覚か。▼いかにもアメリカ的なBBQ…
甚だ・非常にという意味の「弥(いや)」と、騒がしい・うるさい、を表す「かまびすしい」をつなぎ合わせた言葉を、四字熟語の喧々囂々(けんけんごうごう)でおなじみの漢字を使って、弥囂あるいは弥喧と書く。「やかましい」は、これが転じたものともいわ…
タマダさんは今宵(こよい)もどこかで仲間と乾杯しているだろうか。ロシア軍が侵攻したグルジア。大人の男なら、タマダを名乗る場面が必ずやってくる。人が集まれば、まず誰がタマダになるかを決める。この国が守り続ける宴の習いである。▼酒席の仕切り役と…
回転ずし、レトルト食品、電卓、プレハブ住宅、ターミナルデパート……。みんな大阪で生まれたという。「人のやらんことをやろう」。そういう精神が数々の発明につながったのだと、井上理津子著「はじまりは大阪にあり」は説く。▼なかでも戦後最大のヒットは即…
五輪公園の偉観、国家体育場(愛称・鳥の巣)と国家水泳センター(水立方)は、不夜城のごとく妖(あや)しく輝き世界記録を量産した。陸上短距離3冠王のボルト、競泳8冠のフェルプスら超人の活躍が記録的五輪として人々の記憶に刻まれる。▼中国は米国、ロシ…
暑さも盛りを過ぎ、夏バテに加え、レジャーによる疲れが残る方も多いのではないか。ガソリン高などもあったが、それでも大勢がこの夏も内外の観光に出かけた。旅先でものんびりすることなく、名所巡りに精を出す。そんな体験を多くの大人が持つ。▼旅と日本人…
きのう五輪野球の準決勝で、日本は韓国の鮮やかな集中打に逆転負けを喫した。予選リーグから通算で韓国は8戦全勝、日本は4勝4敗。きょうの3位決定戦で敗れると、日本は負け越してしまう。メダル獲得もさることながら、野球先進国の看板が危うい。▼相手投手…
「最初の一杯ほどおいしいものはない。昼間はどんなに飲みたくても我慢する。1日の終わりに楽しみはとっておく」と、評論家の川本三郎さんが随筆「ビールの季節」に書いている。麦酒党員ののどを鳴らすにはこれで十分だろう。▼ビールにはつきものの「のどご…
人気アイドル歌手の初音ミクをご存じだろうか。テレビには出演せず、コンサートも開かない。ネットの仮想空間から一歩も出てこないから会った人はいない。幼さを残す16歳の少女の歌声が、それでも大勢のファンを虜(とりこ)にしている。▼初音ミクは札幌のI…
去年の暮れから、警察に届いた落とし物をインターネットで検索できるようになった。さすがにお役所で、遺失物をこと細かに例示した県警本部もある。現金にハンドバッグ、がま口、と始まり、果ては水着、入れ歯、数珠、お骨……。▼落とし物もなんと様々かと驚く…
昭和の大詩人三好達治は93年前の第1回夏の全国高校野球大会決勝戦を見ている。場所は大阪の豊中球場で「ぼうぼうと草のはえた、周囲はどこからということもなくそのまま畑につながっている、しごくそぼくなものであった」。▼そんなことを随筆「豊中時代など…
お盆の週が終わると、日本中の空気が元に戻る。でもやはりこの国の8月は重い。長野新幹線・上田駅から車で20分ほどの距離にある「無言館」。戦争で亡くなった画学生たちの作品を集めた空間だ。青春を静かに凍結保存している。▼教会風の建物を入る。やや暗い…
五輪前半。準決勝、決勝と勝ち上がっていく柔道の上野雅恵選手の顔がよかった。ほれぼれとテレビを見た。実は3年前、初戦で負けた世界選手権のビデオに映った生気のない顔が許せなかったのだという。連覇への道は、あの顔を取り戻す戦いだったわけだ。▼北島…
「あつべえ」「うながっぱ」ってご存じですか。知らない方は、1年前の今日を思い出していただきたい。「日本列島は16日も厳しい暑さが続き」で始まる本紙記事の見出し「40.9度 最高気温、74年ぶりに更新」がヒントになる。▼1933年に山形市で観測され長い間日…
王者の風格すら漂う堂々たる泳ぎで、北島康介選手が北京五輪2つ目の金メダルを手にした。大きく、ゆったりした手足の動きを余裕の表れとみるのは間違いで、その方が抵抗が少なく、体力も温存できタイムが縮まるから。先日の100メートル決勝で水をかいた回数…
人間を言語の支配から解放する。五輪にはそんな力があるらしい。柔道で金メダルを決めた投げ技。試合後に録画映像を見て、谷本歩実選手が思わず「すごい」と口にしていた。自分自身の姿に素直に感嘆する「自画自賛」は清々(すがすが)しい。▼水泳の北島康介…
7人兄弟の下に生まれた妹が実は鬼で、そのキバで「家族をみんなあの世へ追いやって」しまう。1人無事だった末の弟も、鬼女は婚家まで追いかけ、妻から奪おうとする……。コーカサスのオセチア地方に伝わる説話「月」の粗筋だ。▼これを載せた「世界の民話 (20)…
37歳で祖国を追われ32年ぶりに帰国できそうだという時、ひとは何が気になるのだろう。南米のボリビアで家族とともに亡命生活を送ったクラウス・バルビーという名のドイツ人の男は口にしたという。「カミソリはいくらかね」▼東京などで公開中のドキュメンタリ…
東京の都心ではこの数年、外資系を中心に高級ホテルの進出ラッシュが続いた。これらのホテルは軒並み米国の金融不安の余波に泣いている。あてにした外国ビジネス客が減ったからだ。昨年末以降、客室稼働率が前年同期に比べ2ケタ低下のところも多い。▼そんな…
「虫干しの真中に坐(すわ)り涙せり」(庄野千壽)。衣服や古書籍をカビ、虫食いから守るために風や日にさらすのは、いつしても虫干しになるわけではない。立秋の前の18日間を指す夏土用の季節にするのが、本来の虫干しだと辞書にある。▼例年5月末ころにす…
「甍(いらか)の黄色い紫禁城を繞(めぐ)った合歓(ねむ)や槐(えんじゅ)の大森林、――誰だ、この森林を都会だなどと言うのは?」。1921年、芥川龍之介は4カ月にわたり中国を旅して歩き、様々な見聞記を著した。その目に「大森林」と映った場所が北京であ…
フィリピン・レイテ島をさまよう敗残日本兵の極限状態をテーマにした小説「野火」を、大岡昇平は昭和21年に書き始めた。占領下の当時、アメリカ兵を指して「敵」と呼ぶことはGHQに許されず、「相手」としか書けなかった、と後に振り返っている。▼裏返しの…
川を囲い込むように延々と続く高く長大な堤防を、日本版万里の長城、と欧米の水利工学者は呼ぶ。激流が岩をかむ日本の河川は、滝にもたとえられる。ふだんは静かでゆるやかな流れが、突然大増水して暴れ川と化すのも、日本の川に特徴的な性質だという。▼河川…
日系三世スティーブン・オカザキ監督の映画「ヒロシマナガサキ」をNHKテレビで見て考えさせられた。「最後の証言と思って」。原爆から63年、被爆証言者の悲痛な叫びを戦争を知らない世代にどう伝えるか、剣が峰にいる。▼もはや日本の75%が戦後世代、8月…
1皿の冷たい粥(かゆ)に目の色を変え、堅く凍(い)てついたパンにかぶりつき、ごった煮の野菜スープにのどを鳴らす。もう1杯粥にありつければ無上の喜び、ソーセージやベーコンは夢に近い。スターリン体制下、旧ソ連の強制収容所の生活だ。▼ソルジェニーツ…
「キャラビズ研究」という聞き慣れない名の産学協同講座を今年から東大が始めた。キャラはキャラクター、ビズはビジネス。アニメの主人公や企業のマスコットなどのうち、あるものは人気を博し、あるものは無名のまま消える。その違いを究明するという。▼この…
「偉い方が毎日のようにテレビに出てきては頭を下げ『おわびを申し上げたいと思います』なんて言ってますが、あれは思ってるだけなんで。謝ってるわけじゃないんですな」。寄席をのぞいたら、柳家さん喬さんがこんなマクラを振って笑いをとっていた。▼「〜た…
視覚、聴覚に重い障害を持つ少女の閉ざされた心を開いたのは、手にかかる水の感触だった。三重苦を乗り越えて社会事業に尽くしたヘレン・ケラーと、家庭教師のアン・サリバンが残したたくさんの逸話の中で、触覚から言葉に目覚める瞬間は印象的だ。▼火星に水…