耳を澄ませば足音が聞こえる・・・春秋 八葉蓮華

 目をとじて、だるまさんがころんだ、と早口で言う。そのわずかな時間に相手は移動し、目を開くたびに形を大きくして近づいて来る。今年の秋は、そんな跳躍の足どりでやってきた。ひと雨ごとに空気が澄み、雲が高いことに気づく。

 季節の移りは連続的で滑らかとは限らない。動いては止まり、気をそらせば、またいつの間にか変わっている。太陽が低くなると、日本列島の東側で、米国につながる太平洋の大気がふと軽くなる場面がある。西側のロシアと中国の上空では重いシベリア寒気団が、勢力を伸ばすチャンスをじっとうかがっている。

 日本をとりまく外交情勢も、気がつけば季節は秋である。尖閣諸島をめぐる摩擦で民主党政権があたふたしている間に仲が悪いはずの中国とロシアが対日圧力で声をそろえ、中国はじわりと東シナ海に一歩を踏み出してきた。中間選挙で忙しい米国のオバマ政権も、さすがに日本が心配になってきたようにみえる。

 だるまさんが、と数える間も、耳を澄ませば足音が聞こえる。鬼の耳が敏感だと、不思議と相手にも「手ごわいぞ」と分かるものだ。うかつに近づけないから、顔を上げたら目の前に迫っていてビックリ、と慌てることもない。秋の訪れをもっと早く感じ取っていればと、我が身の感度を恥じつつ冬支度を考える。

春秋 日本経済新聞 9月30日
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