2009-09-01から1ヶ月間の記事一覧
歴史的な衆院選からきょうで1カ月になる。政治の風景は変わった。楽屋話と思われるかもしれないが、政権と各メディアとの位置も変わった。鳩山政権が発足直後に打ち出した事務次官による記者会見の廃止に対する反応が興味深い。 1紙を除き、すべての全国紙…
地域おこしのマスコットには「ゆるキャラ」が大人気のようだ。のほほんとしていて憎めない雰囲気の、ゆる〜いキャラクターである。「ひこにゃん」で有名な滋賀県彦根市では来月、全国のお仲間を集めたサミットが開かれるという。 この人もどこか、ゆるキャラ…
「あの人は官僚だな」と言えば一般には悪口である。規則を盾に融通がきかない。事なかれ主義で前例踏襲をむねとする。上の意向を絶えずうかがい、下に対して冷淡。こんなタイプの人のことだ。組織あるところどこの世界にもいる。 企業にも多い。いま問題の日…
「おれ実はカツマーなんだ」「あ、私も」。大学のゼミの同期会で、10人中3人がそう告白した。カツマーとは経済評論家、勝間和代さんの本の愛読者を指す。その増殖は社会現象化しアンチ本や「勝間和代現象」の研究書も登場した。 自身の経験をもとに勉強法や…
その夜、台風の接近を知りながらも「私はのんきにレースを編んでいた」とある女子中学生は作文に書いている。ところが、ほどなく暴風雨はミシミシと家を揺さぶり、家族を濁流が襲う。「私はただシという事だけが頭にひらめいた」 伊勢湾台風の惨禍からあすで…
民俗学に大きな足跡を残した宮本常一氏は、対馬の村の寄り合いに驚いた。昼夜の別なく2日も議論が続いていた。何か決める時は「みんなの納得のいくまで何日でもはなしあう」と、「忘れられた日本人」(岩波文庫)に書いている。 不満が残らないよう自由に発…
一国の発展を測る物差しが国内総生産(GDP)一辺倒ではおかしい。休暇や家事、ボランティア活動、環境への配慮などにも価値を認め、生活の質や国民の幸福感も映した新しい指標が必要だ――。そんな提案をフランスがしている。 アイデアを携え先日演説したサ…
夜の地下鉄で座れずに立つ婦人の姿を見かけた。年齢は70代か。きちっとした身なりで背筋を伸ばし、優先席の前で立っていた。1人だけ座れたご主人が見上げていた。拉致問題で奮闘を続ける、横田早紀江さんと滋さんの夫妻だった。 優先席は少し前まではシルバ…
鳩山由紀夫首相の外交デビューの週だ。国連総会など国際会議があるため、最初の訪問国は米国になったが、しばしば「愛」を口にする鳩山氏に似合った「愛の国」がある。英国の西にある島国アイルランド。「愛蘭土」と表記される。 略して「愛国」とすると、硬…
ここだけではないだろうが、福島県檜枝岐(ひのえまた)村では毎朝6時になると防災行政無線から音楽が流れる。尾瀬の北側の入り口だから曲は「夏の思い出」。かなりの音量である。村全体に目覚まし時計がセットしてある。そうともいえようか。 役場に聞けば…
昭和の名コメディアン、古川ロッパはその日その日の自分の芸を省みて、じつに様々な造語を日記に残している。いわく腐演、汗演、不機嫌演、ダレ演……。たまには熟演や快演に満足もするが、ほとんどは舞台の不首尾を嘆く日々だ。 この悩み多き喜劇人なら、例の…
あるものを観察するとまず目に入るのは輪郭である。次に局部、そのまた局部と細かいところが目に入ってくる。ところが、局部に明るくなるにつれ根本の輪郭がお留守になる。ただ細かく切り込みさえすれば、自分は立派に進歩したものと考えるらしい――。 何やら…
ラーメンの食べ歩きが好きな友人が、昨今の味の潮流を嘆いていた。どの店も塩分や油や調味料が強くなりすぎて、本来のスープのうまみが感じられなくなった。舌先の印象を競うあまり、濃い味に向かって一直線に走っているようだ。 人は誰でも違う味、新しい味…
北京五輪の会場「鳥の巣」の設計にも参加した中国の現代美術家アイ・ウェイウェイ氏の作品を東京・六本木の森美術館で見た。茶葉1トンを固めた立方体。自転車42台をつなげた円筒。古寺の廃材を複雑に組み合わせた立体。ユニークな手法で中国の今を描く。 ど…
「安全第一」は最初、「安全専一」といっていた。明治の末に足尾銅山所長に就いた小田川全之(まさゆき)が、この言葉を考えだし標識を作った。鉱毒事件が起こった後に着任し、対策に追われた経験から、従業員の安全にも目を向けたのだろう。 小田川は米国の…
シルバーウイークと称する5連休が来週末から始まる。今なお計画を立てていない人に向け「まだ間に合う、××の旅」などとうたう旅行会社の広告が目立つ。不況にインフルエンザと、振るわなかった売り上げを取り返そうと懸命だ。 実際、日本人の旅行消費は国内…
クロマダラソテツシジミ、とは舌をかみそうな名前だが、東南アジア原産の熱帯性のチョウのことだ。羽を広げても3センチほど、幼虫はソテツの若芽を食い荒らす習性があるという。世界中に分布するシジミチョウのなかでも変わり種だ。 南国の風土にこそふさわ…
花のいのちはみじかくて……と唱えれば、続く言葉が口をついて出る。「苦しきことのみ多かりき」。ため息まじりのつぶやきが似合うだろうか。作家の林芙美子が愛誦(あいしょう)し、好んでしたためた名文句だ。世に知られて半世紀にはなろう。 若いときに苦労…
麻生太郎首相が首相官邸を離れる日が、刻一刻と近づいている。一日の動静を伝える新聞の欄を見ると、先週末は静かに過ごせたようだ。民主党の鳩山由紀夫代表の欄からは忙しさが伝わってくる。新政権の準備に追われる毎日である。 権力の座から去る人の思いは…
歯の中に小さな石が隠れていることがある。象牙質の硬い部分の内側に、なぜか米粒ほどの結石ができる。虫歯でもないのに跳びはねして痛むときは、この石ころの仕業かもしれない。「デンティクル」と呼ばれる不思議な小石である。 X線で撮った写真が面白い。…
きょうは9月最初の日曜日。まだ暑いけれどだからこそ、気分だけでも秋を味わいたい。ごろりと横になり本を開いてみよう。小説の世界に没頭すると、硬くなった頭がほぐれる。村上春樹もいいけれど、森鴎外や夏目漱石に挑みたい。 鴎外、漱石が代表する近代文…
明治時代に入り、税金を預かり運用する「官金取り扱い」で銀行は潤った。三井銀行(現在の三井住友銀行)もその権利を得て、恩恵を受けた。ところが1892年に実質的なトップに就いた中上川(なかみがわ)彦次郎は、あっさり特権を返上した。 官金取り扱いが行…
プロの将棋を観戦した志賀直哉が、感想を画家の梅原龍三郎に伝えた手紙が残っている。「精コンをあれ程(ほど)傾けつくして戦い、その本統のところは少数の専門家にしか分からず、しかも一般にこれ程ウケているというのは不思議なものだ」 そう。中身は分か…
明治の大作家幸田露伴に「憤ることの価値」という少年向けの短文がある。水は激して石を漂わせ、火は激して金を溶かす。憤りなくしてどうして功を成し歴史に名を残すことができよう。「憤るべし憤るべし」。檄文(げきぶん)の趣さえもある。 日本の歴史にし…
小売業やサービス業にとって怖いのは、不満があっても黙って立ち去る客である。何が気に入らないのか言ってくれないと改めようがない。二度と利用してくれないだけでなく、口コミによる「あの店は駄目だ」という悪評が恐ろしい。 その点、常連客はありがたい…
顔をほんの少し上に向けるのが「テル」。やや伏せれば「クモル」。動いたとは気づかないほどのわずかな所作で、同じ顔が笑っているようにも、泣いているようにも見える。能面に豊かな表情を与えるのは、熟練の能楽師の技である。 主役のシテ方は、自己のすべ…