2010-02-01から1ヶ月間の記事一覧
ゲームには将棋型とマージャン型とがあるそうだ。相手の陣形も戦力もこちらから丸見えの将棋と、手の内が分からないマージャンと。戦術の違いを「自陣を見るか敵陣を見るかの差だ」と説いていたのが、将棋の大山康晴名人である。 チャンスとみれば攻め込みた…
フィギュアスケートの本番の演技を、選手たちは「試合」と呼ぶ。画面に映るのは華麗な衣装と優美な舞いだが、実際の氷の上は、鍛えた身体がぶつかる試合場だ。二人の19歳が戦った4分間の試合は、五輪の歴史に残る名勝負だった。 「長かったというか、あっと…
東京・六本木の国立新美術館と赤坂の東京ミッドタウン。先年、ほど近い距離にこの2つの名所が生まれて周辺の人の流れが大きく変わったそうだ。注目の先端スポットなのだが、実は、いずれの空間も激動の昭和の記憶を秘めている。 新美術館の場所にはかつて旧…
大学生に「戦略的休学」を勧める一風変わったイベントが、つい先日開かれた。主催は若者の起業や就職の支援で実績ある非営利組織(NPO)。海外ボランティアや国内でのフルタイム労働など、大学3、4年生が休学体験を語った。 このまま就職活動に入ってい…
城巡りが趣味の友人によると現存する城郭もいいが、想像力をかきたてる城跡も面白いそうだ。その代表格は壮麗な天守と総石垣で有名な安土城だろう。信長が築城し、3年で焼失した幻の城だ。発掘調査で石段などが復元されている。 この城跡がある滋賀県安土町…
「街を美しくしようなんて、けしからん」。40年ほど前、建設省(現国土交通省)の人にしかられたときの言葉を、田村明さんは生涯忘れなかった。民間企業から横浜市の職員に転じ、都市デザインの仕事を始めたばかりのころの話だ。 市の中心に高速道路をつくる…
春節と呼ばれる旧正月からちょうど1週間。中国はいま、年に一度の「民族大移動」のさなかにある。父母や親族とのだんらんを求めて故郷に戻っていた出稼ぎ労働者たちが、再び職を求めて都会に向かう流れが、ピークを迎えている。 中国政府の予測では、春節を…
遠く3300年前の難事件を最新技術を駆使して再捜査し、真相に一歩迫った。そんなイメージだろうか。古代エジプト王ツタンカーメンのミイラをDNA鑑定したら、マラリア原虫のDNAが見つかり、病死らしいと分かったそうだ。 父と母はきょうだい同士だった。…
「子どもとケータイ」をめぐる悩みを打ち明ける先生もいれば、習熟度学習のコツを説くリポートもある。塾通いの是非、小学校英語の実践例、道徳の教え方……。日本教職員組合の教育研究全国集会に集まる報告はおそろしく多彩だ。 かつて何度も取材に足を運び、…
「ボクシングはもっともよく出来た闘争のフィクションである」。三島由紀夫がエッセーに残している言葉だ。そこには高度の技術性と科学性が備わっていると三島は言う。リングの上の選手はそれをわきまえてじつに冷静なのだ、と。 自らグローブをつけた体験を…
バンクーバー冬季五輪で日本人メダリストを2人出したモーター製造の日本電産サンキョーは、2003年度まで3年間、赤字続きだった。当時の社名は三協精機製作所。精密モーター大手の日本電産が買収し、息を吹き返した企業だ。 すぐやる、必ずやる、できるまで…
茶室の「緑水庵」は、砂漠の国にある。現地の言葉では「緑のオアシス」と呼んでいる。その名前をアラビア語で記した入り口の額は、なかなか風情がある。アブダビ首長国のムハンマド皇太子が、自分で筆をとって墨で描いたそうだ。 日本文化の愛好家で、武士道…
赤本に青本。専門の塾まである。隣国の大企業、サムスンを目指す韓国学生の就活対策だ。「S商事がJ繊維の買収を拒否された。対策を論ぜよ」。本番ではこんな質問に外国語で答える面接試験もある、と学生から聞いたことがある。 「司法試験や外交官試験並み…
あなたのお気に入りのものを一つ、写真に撮り送ってください。ある研究所が1年余り前、若者を相手にそんな調査をした。意外だったのは「誰かにもらったもの」を撮影した人の多さだったという。しかも決して豪華なものではない。 ちょっとしたみやげ。母親か…
夏のオリンピックに冬の競技が組み込まれたことがある。1908年のロンドン五輪にフィギュアスケートがお目見えし、のちの夏季大会ではアイスホッケーも仲間入りした。人工室内リンクができて一年中滑れるようになったからだ。 それでも、フランスのシャモニー…
1950年代から70年代にかけ住友銀行(現三井住友銀行)の頭取、会長を務めた堀田庄三さんは、晩年の楽しみのひとつが水彩画だった。「葉を緑でなく、青で描く。感じたまま大胆に」。取締役を退いた後の85年に、こういっていた。 堀田さんはその2年前まで日本…
すし屋、鮮魚店、乾物屋、卵焼き店……。東京・築地の場外市場を歩くと妙に心が弾む。昭和の懐かしい雰囲気と人情味あふれる人々に出会えるからだろうか。寒気が日本列島を包むこの季節でも、市場界わいのにぎわいは変わらない。 築地はその地名でわかるように…
メトロノームに合わせて、部品のネジを手のひらから、ひとつずつ落としていく。コツ、コツ、コツ……。続けるうちに、ネジが受け皿に当たる音が、正しく1秒に1回を刻むようになる。トヨタ自動車が全新入社員に課す訓練である。 製造の現場では、流れ作業のス…
能楽や日本舞踊で使うような大きな扇をパラパラと開いたかと思うと、耳のあたりに押し当てて、ひとりで大声で話している人がいた。扇に見えたのは、携帯電話に取り付けた金属製の道具である。はた目には少々こっけいな姿だった。 金属の扇で自分の頭を携帯か…
ディズニーランドが日本に進出するとき、候補地が2つあった。1つは千葉県の埋め立て地で、もう1つが風光明媚(めいび)な富士山麓(さんろく)。米ディズニーが選んだのは大都市に近い前者だったと、誘致した高橋政知氏が「私の履歴書」で振り返る。 その…
文明開化の香りたっぷり啓蒙(けいもう)思想を鼓吹した「明六雑誌」が明治7年、相撲をやり玉にあげて書いた。「智をたたかわせるのではなく、力をたたかわす獣類のすることです。それを見て楽しむ者も、また人類のすることとは言いがたい」 湯本豪一氏の「…
日本地図の上にぽつんぽつんと散らばる小さな曲線。この6月からタダになる高速道路の50区間を眺めて、鉄道の世界の「盲腸線」という言葉を思い出した。行き止まりになったりしていて大赤字に苦しんだ旧国鉄のローカル線である。 せっかくの無料区間を盲腸扱…
眺めていると深い安らぎを覚えるから不思議だ。ゆったりとしたパワーも伝わってくる。東京国立博物館で開催中の「土偶展」に勢ぞろいした、縄文時代の偶像たちである。力強くてユーモラスで、どこか悲しげな姿が人々の心を打つ。 土偶にどんな役割があったの…
「事実というのは袋のようなもので、何かを入れなければ立ってはいない」とは、英国の歴史家E・H・カーが著書「歴史とは何か」に引いている言葉だ。袋に「何か」を詰め込むことによって事実は歴史になる、という意味であろう。 「何か」は歴史認識であり、…
「質」という字は、おのを表す2つの「斤」と「貝」から成る。白川静さんの「常用字解」によれば、「貝」の形は古代中国で儀式の道具に使った鼎(かなえ)から来ている。質とは、鼎にふた振りのおので、重要な約束を刻むことなのだそうだ。 とすれば、品質と…