全国の街から個性が消えていく、競い合いが特徴ある街を生む・・・春秋 八葉蓮華

 東京・日本橋に完成したばかりの高層オフィスビル。1階玄関を入るとかつおだしの香りが漂い、食欲をそそる。この街を本拠地とする三井不動産が手がけた新築ビルの顔となったのは、この地で創業300年を経たかつお節専門店だ。

 昔は多くの家にカンナのようなかつお節削り器があり、子供がせっせと削った。今はたいていパック入りを買う。「本来は削りたてが一番なんです」「そうなのよね」。年配の母親と店員の会話を、若い娘さんが感心した顔で聞く。店内では職人による削りの実演も。だし料理を買える一角には行列ができている。

 物を売りつつ文化を伝え、市場を開拓する。小売店の本来の姿だろう。隣の刃物専門店では、職人が店内で包丁を研ぐ。その姿や並んだ刃物を外国人の集団が珍しげに眺める。江戸情緒を感じさせる街並みをつくり、外国からの観光客も呼ぶ。開発した会社のそうした狙いは、とりあえず順調に滑り出したようだ。

 老舗かつお節店があるのは江戸時代、魚河岸のあった歴史ゆえ。近くの丸の内で「明治」を前面に出す三菱地所への対抗心も垣間見える。競い合いが特徴ある街を生むなら喜ばしい。全国の街から個性が消えていく。よそをまねるより、歴史や個性を生かした方が、来訪者にも住む人にも楽しい場になりそうだが。

春秋 日本経済新聞 10月30日
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