意志の勝利「まず平和を愛せ。そして従順、勇敢であれ」とあおり立てる独裁者・・・春秋 八葉蓮華

 もとはもっぱら激しい寒さや恐怖、嫌悪を表現した「鳥肌が立つ」という言葉は、最近は感激した時にも使われる。「総毛立った」と言えば誤解はないだろうか。1934年のナチス党大会を宣伝用に記録した映画「意志の勝利」を見終わっての気持ちである。

 映画はいま東京で公開されている。総統になったばかりのヒトラーや側近の絶叫がこれでもかと出てくる。陸上競技場の観客席とフィールドを埋めつくす若者に向かって「まず平和を愛せ。そして従順、勇敢であれ」とあおり立てる独裁者。画面からはその真意、グロテスクな素顔が透け出ている、ように思える。

 が、後知恵だと言われれば反論はできない。ヒトラーは映画の出来に大いに喜び、ドイツ国外でもプロパガンダ映画の傑作と評された。党員の陶酔と高揚が全編にあふれている。当時の観客に、今流の「鳥肌が立つ」感動に浸らなかった人間がどれほどいたのか。その恐ろしさをいまに伝えるのも映像の力である。

 歴史にタラレバは禁物というが、後知恵はどうか。起こったことをひっくり返すことはできはしない。それでも、もう繰り返さない、今度は後知恵にならぬよう知恵を出す、と心に決めることはできる。広島、長崎の原爆忌。そしてきょうの終戦の日。日本の8月にはそんなことを考える。

春秋 日本経済新聞 8/15
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