革命劇から23年「黄色いシャツ」フィリピンは極端な貧富の格差を残したまま・・・春秋 八葉蓮華

 独裁者の栄華の跡には、もの悲しい空気が漂っていたのを思い出す。フィリピンのマルコス元大統領夫妻が住んだマラカニアン宮殿だ。あの革命から4年ほど過ぎたころだが、イメルダ夫人のドレスや靴の数々が整然と展示されていた。

 権勢をほしいままにした「王朝」への怒りと、民衆の力でそれを倒した誇りを伝える演出だったのだろう。1986年2月、たしかに世界もマニラの激動にかたずをのんだ。街を埋め尽くす反政府派の黄色いシャツ。主(あるじ)が逃げ出した宮殿になだれ込む市民。その運動を率いたコラソン・アキノさんの訃報(ふほう)が届いた。

 穏やかに暮らす上流階級の主婦だったという。人生が一変したのは夫のベニグノ氏が首都の空港で暗殺されてからだ。ピープルパワーを背に大統領に就き、その後の評価は分かれるけれど存在感は誰もが認めるに違いない。政治に疎いひとりの母親が異色の指導者に変容していった軌跡に、現代史のドラマを見る。

 後に三洋電機社外取締役として工場を訪れ、洗濯機で襟の汚れがどこまで落ちるのか熱心に尋ねたというから主婦の視線を持ち続けていたのだろう。片や宮殿を追われたイメルダ夫人は意気軒高ながらもう80歳だ。革命劇から23年。人はそれぞれに歩んだが、フィリピンは極端な貧富の格差を残したままである。

春秋 日本経済新聞 8/2
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge