太宰治の生家「赤い大屋根」撰ばれてあることの 恍惚と不安と 二つわれにあり・・・春秋 八葉蓮華

 町に近づく列車の窓からも、ひと目でそれと分かる赤い大屋根。青森県金木(かなぎ)に残る作家、太宰治の生家だ。10年余り前から公開され老若男女でにぎわう。道を挟んだ土産物店には、漫画調の肖像をあしらうイカ墨煎餅(せんべい)「生まれて墨ませんべい」なども登場した。

 今年が生誕100年の太宰は新築直後のこの家で生まれた。堂々たる和風の外観は写真などで見慣れていたが、訪れてみて強い印象を受けるのは家を囲む赤レンガ塀だ。人の背丈よりはるかに高い。金融業を営む大地主で、政治家でもあった太宰の父が、小作人らに襲われるのを恐れて作らせたと説明書きにある。

 部屋から庭を望めば、先の眺望をレンガ塀が遮り、幽閉されたような気になる。「撰(えら)ばれてあることの/恍惚(こうこつ)と不安と/二つわれにあり」。初めての作品集は、そんなベルレーヌの詩の引用から始まる。邸内には大勢の使用人。外の世間との高い壁。恍惚と不安の下地はここで作られたのか、などと想像してみる。

 太宰治、本名津島修治の娘婿が今回、衆院議員を引退する。地元では後継に息子さんを推す。政治家の親を持つ恍惚と不安を、一度は感じたであろう世襲候補者は他にも大勢いる。もちろん、いずれの方も今はまだ候補者。議場に座れるかどうかを最後に決めるのは、運命ではなく有権者だ。

春秋 日本経済新聞 8/1
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