認知症の予防にも有効かも「一杯のコーヒー」飲む理由が増えた・・・春秋 八葉蓮華

 宗教を酒に、哲学をコーヒーに例えたのは寺田寅彦である。「宗教は人を酩酊(めいてい)させ、官能と理性を麻痺(まひ)させる」から酒。「コーヒーは官能を鋭敏にし、洞察と認識を透明にする」から哲学。よほどのコーヒーびいきだったとうかがえる。

 仕事が行き詰まってしまった時、コーヒー茶わんの縁が唇と触れようとする瞬間に頭の中に一道の光が流れ込み、やすやすと解決の手掛かりを思いつくことがしばしばある。こう述懐した寅彦は物理学者だ。コーヒーの効能と酒の酔いは違うと言いたかったのか、「客観のコーヒー主観の新酒哉(かな)」と詠んでもいる。

 コーヒーにはがんや糖尿病などの予防効果があると言われているが、先日の本紙には認知症の予防にも有効かもしれないとの記事があった。アルツハイマーを病んだマウスにカフェインを1カ月摂取させると、迷路で迷わなくなったり、脳内にたまった病気の原因とみられるたんぱく質の量が減ったりしたそうだ。

 これでコーヒーを飲む理由が増えた。といって万能薬でないのは、カップに唇を触れようが胃に流し込もうが、頭に光一筋流れ込んでこないこと再々の一事をみるだけでよく分かる。酩酊と主観の味にもひかれるから、一杯のコーヒーと新酒とどちらも大切。そう書いて、言い訳じみていなければいいのだが……。

春秋 日本経済新聞 7/29
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