紅白の服と三角帽に黒めがね「くいだおれ太郎」がもうすぐ道頓堀に・・・春秋 八葉蓮華

 1年前のきょう、大阪の繁華街、道頓堀から1人の人気者が姿を消した。紅白の服と三角帽に黒めがね。飲食店の店頭で愛嬌(あいきょう)を振りまいた人形、くいだおれ太郎のことだ。閉店の日は大勢のファンが別れを惜しみ、その後は全国各地の催しに出席する旅に出た。

 昭和30年代、太郎の雇用主である食堂が冷暖房完備のビルへと店を建て替えた。このとき、取引のあった銀行は人形の撤去を融資の条件に突きつけた。最新のビルにこの人形は似合わないという理由だ。創業者はきっぱり断った。「この人形は店と道頓堀の宝だ」。融資に頼らず自己資金だけで乗り切ったそうだ。

 太郎を団塊世代の象徴とみるのは大阪で長く情報誌を編集してきた江弘毅さんだ。誕生が戦後間もなくだからというだけではない。食堂はすしとエビフライとお子様ランチを一緒に楽しむ家族の店だった。やがて消費の単位は個人に移る。食堂は寂れ、独り店頭に立つ太郎が団塊男性の共感を呼んだ、と読み解く。

 そんな人気者がもうすぐ道頓堀に帰る。元の食堂にほど近い場所に立つ飲食店ビルが改装。所有者が長期に貸与する形で入り口に常駐するのだ。ビル名も「くいだおれ」の言葉を冠する名に改めるという。老舗店や大型施設の閉鎖が続く道頓堀に、今年還暦の太郎は新たな活気を呼べるか。

春秋 日本経済新聞 7/8
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