ヤミ専従「武備目睫」奥義や秘伝はすぐそこにある・・・春秋 八葉蓮華

 江戸時代、太平の世の旗本御家人に基本作法や心得を説いた「武備目睫(ぶびまつげ)」と題する書があった。奥義や秘伝はすぐそこにあるが、まつげのようにその存在に気づかない、という意味のことわざ「秘事はまつげ」に由来した書名だという。

 なかにこんな趣旨の一節がある。「町人が色に溺(おぼ)れるごとく、道に溺れ義と心中してもいいという思いを日夜朝暮に忘れてはならない」。町人ばかりが色恋やら心中沙汰(ざた)やらの担い手だったとも思えぬが、女性を愛するように道義を慈しむ、とは徳川将軍家に仕える若侍に分かりやすい表現だったのかもしれない。

 さて、彼らが溺れたのは色恋でもなかろうし、もちろん道義でもない。農林水産省ヤミ専従の常習職員が198人いたという第三者委員会の調査報告書が出た。人事・労務担当者や直属の上司ら945人にも責任があるのだという。組織丸ごと労使慣行という名のぬるま湯にいい気分で溺れきっていたのだろう。

 「まつげを濡(ぬ)らす」はだまされないよう用心するという意味、「まつげを読まれる」ならだまされるという意味だ。農水省には去年、ヤミ専従ゼロとの発表にまんまとまつげを読まれたことがある。今週にも大量処分を行うというが、果たして道に溺れる覚悟があるのか。今度はしっかりとまつげを濡らしておく。

春秋 日本経済新聞 7/16
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