「3人乗り自転車」歩く人の恐怖心と自転車を漕ぐ母親の苦労・・・春秋 八葉蓮華

 「エコ」じゃなくて「エゴ」だよ。今月解禁された3人乗り自転車をめぐって、そんな意見をあちこちで耳にした。「物、彼(か)れに非(あら)ざるはなく、物、是(こ)れに非ざるはなし」と中国の「荘子」にある。どんなことも見方次第でああもこうも言えるといった意味だ。

 この話、3人乗りを禁じる法律を額面通り適用しようとする警察に「子育てができない」と母親たちが反発したところから始まった。ならば、と安全な自転車に限り認める方針になったのは「母の勝利」ではあろう。けれども、その自転車が我が物顔で歩道を走ることに危険を感じる人だっているのもまた現実だ。

 クルマが見れば邪魔なのろま、歩行者が見れば乱暴な侵入者。漕(こ)ぐ本人もクルマのつもりだったり歩行者気分だったり。ああもこうも言える自転車の身の置きどころは難しい。法律はむろんクルマ。警察もおとなの2人乗りや信号無視などを厳しく取り締まるようになったとはいうのだが。

 エコだ健康だとおだてながら、専用の道さえろくにないのが問題なのははっきりしている。そうなのだが、とりあえずは歩く人の恐怖心と自転車を漕ぐ母親の苦労とに、お互いが思いをはせるしかない。「荘子」は「利を見て而(しこう)して、其(そ)の真を忘る」とも言う。目先だけにとらわれてはいけない、との教えである。

春秋 日本経済新聞 7/4
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