多人種共存の「虹の国」づくり、人種差別は魂の病だ・・・春秋 八葉蓮華

 報道陣が細いマイクを突き出すと、とっさに後ずさった。獄中27年。新しい武器かと思ったという。その人は後の南アフリカ共和国大統領、ネルソン・マンデラ氏。差別と闘い投獄され、ついに釈放された日を自伝でそう回想している。

 かつて、ここにはアパルトヘイトという恥ずべき制度があった。どれだけの黒人がこれに抗して倒れ、刑務所に送られたことか。1990年代の初め、そんな体制は劇的に崩れた。やがてマンデラ氏のもとで多人種共存の「虹の国」づくりを進めた南アで、きょう、サッカーのワールドカップ(W杯)が開幕する。

 アパルトヘイトの傷跡は深い。ヒン富の格差は大きく、職のない若者が都市にあふれて物騒だという。それでも、南アでW杯ほどの巨大イベントを開けるようになるとは20年前にだれが想像しただろう。もともと豊かな地下資源を持ち、産業も育ちつつある国だ。今また新たな時代を迎えようとしているに違いない。

 出獄するなりマイクを突き出されたマンデラ氏は、その後も人々を勇気づけるメッセージを発し続けてきた。「達成するまでそれは不可能に見える」「人種差別は魂の病だ。どんな病気より多くの人をコロす」……。間もなく92歳の老闘士はW杯に感無量だろう。きょうの開会式に、姿を見せるとも伝えられている。

春秋 日本経済新聞 6/11
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