急速に普及した文明の利器「ケータイ」マナーモードへの切り替え・・・春秋 八葉蓮華

 賃金交渉が大詰めを迎えつつあり、部屋の中を緊張感が満たした。それを一気に緩めたのは携帯電話の着信ボイスだった。「彼女から電話です」。次の瞬間、組合側の1人が真っ赤な顔で立ち上がり、ケータイを手に部屋を出て行った。

 労使交渉の当事者から聞いた実話である。「彼女から――」の着信ボイスは珍しいにしても、似たような場面に遭遇した人は多いのではないか。会議の前にマナーモードに切り替える。そんな基本動作は、まだ定着したとは言いがたい。世界最大のケータイ市場である中国では、映画の上映中に着信音が飛び交う。

 おそらく、ケータイほど急速に普及した文明の利器はかつてない。1997年に2億余りだった世界の携帯電話サービス加入者数は昨年、46億になった。今や全人類の3人に2人が使っている計算だ。マナーモードへの切り替えひとつをとっても、人類がケータイのある生活に適応するには時間がかかる気がする。

 体制が適応不良を引き起こしているようにみえる国もある。昨年末に北朝鮮が実施したデノミネーション(通貨呼称単位の変更)。そのニュースは、中国製のケータイを持つ人たちが、中国の通信ネットワーク経由で外部に伝えた。情報統制に頼る独裁者にとって、ケータイは笑い話で済まない脅威かもしれない。

春秋 日本経済新聞 5/17
創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge