核の力を借りて「兆し」地上最後の核一発を廃棄せむ日に生き会へよ・・・春秋 八葉蓮華

 1年前に米国のオバマ大統領が「核なき世界」を目指すとプラハで宣言したおり、まっ先に思い浮かべた歌があった。「核兵器廃絶を見ずわれはシなむその兆しさへ見るなくてシぬ」。25歳のとき長崎で被爆した歌人の竹山広さんが、80歳を過ぎて詠んだ一首だ。

 オバマ氏はその後ノーベル平和賞を受賞、きのうは同じプラハでロシア大統領とともに新たな核軍縮条約に調印した。もとより、オバマ氏自らが「生きている間には不可能かもしれない」と語るほど核廃絶は難しい。それでも気になる。先月末に90歳でシ去した竹山さんは、果たして「兆し」を見たのだろうかと。

 竹山さんは声高な物言いを嫌った。「歌も、俯(うつむ)いて声を落とすといううたい方かと思う」と、ある対談で明かした。その人が「アメリカは嫌い」とはっきり言った。原爆を落としたからでなく、核の力を借りて都合のいいように世界を動かそうとする「驕(おご)りの固まり」を感じるからという。

 発言は11年前だ。オバマ大統領は米国の核政策を変えた。もう確かめようもないが、竹山さんはやはり「兆し」を見た。そう思いたい。「地上最後の核一発を廃棄せむ日に生き会へよわが三人子は」という歌にある未来へのやみがたい望み。それは、核廃絶を目指すオバマ氏の意志と相通じると感じるからである。

春秋 日本経済新聞 4/9
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