100年をこえる。積み重なった憎悪は深い・・・春秋 八葉蓮華

 イスラエル北部のハイファは丘陵からすぐ下に地中海が広がる、陽光あふれる港町だ。ここを舞台にしたガッサーン・カナファーニーの小説「ハイファに戻って」を読むと、パレスチナ紛争の根源が理解され、アラブ、ユダヤの民衆の悲しみが痛いほどに伝わる。

 主人公のアラブ人夫婦は1948年のイスラエル建国で、幼い息子を家に置いたままハイファから追い出される。移り住んだヨルダン川西岸地区が19年後にイスラエルに占領されたため、皮肉にもイスラエル領内に自由に行けるようになり、夫婦で怖々昔の家を訪れると、そこには…。

 西岸地区とともに67年の第3次中東戦争イスラエルが軍事占領し、今はパレスチナ自治区になったガザが戦火に包まれている。第一次中東戦争以来でも60年。それ以前の、欧州からこの地に流れ込んだユダヤ人と地着きのアラブ人との争闘は、100年をこえる。積み重なった憎悪は深い。

 「ハイファに戻って」の主人公がかつての我が家で見たのは、ナチスの迫害を逃れたユダヤ人夫婦の養子として育てられた自分らの子だった。息子は兵役に就いていることを明かし、言い放つ。「家をとり返すには、戦争をしなければなりません」。こんなにもこじれた紛争なのだ。戦火を鎮めるには国際社会が強力な仲裁をするしかない。

春秋 日本経済新聞 1/7
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